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マイケル・ムアコック | 翻訳書籍一覧
ホークウインドと繋がりのあるマイケル・ムアコックの著作は膨大ですが、日本では主だった作品は翻訳されています。今まで日本で単独刊行されてきたムアコックの書籍を紹介します。1980年代に1次ムーブメント、2000年代中頃に2次ムーブメントと呼べるような集中刊行がありましたが、いずれも残念ながら廃刊。ここ数年は単独での出版がなかったのですが、2020年にエルリックのコミックが出版されました。

Michael Moorcock (2019)
ムアコックの多くの作品はマルチヴァースという並行世界のコンセプトを用いて、主人公が同一人物として輪廻転生、並行存在として描かれています。シリーズごとに相関関係があり、それを紐解きながら読んでいくという楽しさがあります。また自身の音楽活動での各楽曲もその世界観の一つとして関連性を持たせていると語っています。ホークウインドとのつながりの詳細はインタビューを参照してください。セカンドアルバム「宇宙の探究」から関わったとのことですが、同アルバムにムアコックの記載はありません。73年の「宇宙の祭典」では、ロバート・カルバートが「暗黒の廻廊」を朗読し収録されます。75年の「絶体絶命」はムアコックのヒロイックファンタジーの世界観をコンセプトに制作され、ムアコック自身が2つの朗読曲で参加。
その10年後の1985年にホークウインドは『黒剣年代記』を制作、エルリックをメインテーマにします。同年のツアーではそのアルバムをメインにステージを展開、ロンドンの殿堂ハマー・スミス・オデオンの2日間にわたるギグにはムアコックも参加。その模様はライブアルバム『ライヴ・クロニクルズ』としてリリースされます。映像も撮影され、ビデオでもリリースされました。
翻訳書籍目次
- 『火星の戦士』
- 『この人を見よ』
- 『ルーンの杖秘録』
- 『紅衣の公子コルム』
- 『エレコーゼ・サーガ』
- 『エルリック・サーガ』
- 『ブラス城年代記』
- 『永遠の戦士エルリック』
- 『永遠の戦士フォン・ベック』
- 『グロリアーナ』他単発本
- コミック版『エルリック・サーガ』
70年代までムアコックの単独出版は遅れており、『火星の戦士』『この人を見よ』『ルーンの杖秘録』だけでしたが、82年『紅衣の公子コルム』シリーズを皮切りに永遠のチャンピオン関連作が一気に発売されます。コルム、エレコーゼ、そして真打ちエルリックと続きます。82年に集英社からフォン・ベックの『堕ちた天使』が単独発売、83年に『暗黒の廻廊』が単行本で発売。創元推理文庫からも表紙を天野さんに替えた『ルーンの杖秘録』、そして『ブラス城年代記』も発売され盛り上がりました。この第1次ムーブメントは89年のブラス城の『タネローンを求めて』、90年のエルリックの『真珠の砦』あたりで収束します。94年にエルリックの『薔薇の復讐』、96年に初期の作品『白銀の聖域』が散発的に発売されますが、極端に新刊が減っていきます。2002年に世界幻想文学大賞の傑作『グローリアーナ』が発売、それ以降発売が途切れます。
第2次ムーブメントはエルリックの新3部作をきっかけに、2006年から2008年にかけて早川、創元推理双方から、それまでの作品の表紙絵を佐伯経多&新間大悟さんに変更、新装版として続々と刊行されました。その際早川文庫は各シリーズのサブタイトルに「永遠の戦士〇〇○」と統一しています。それ以降、再び収束し現在ほとんど廃刊となっています。
2020年に角川よりコミック「エルリック・サーガ」の刊行が始まりました。
日本での単行本は以下の一覧ですが、一部表紙が網羅できていないものがあります(『ルーンの杖秘録4部作の新装版/新新装版)。帯は全て初版のものです。また短編などは『SFマガジン』、『ウイングス』を始めとした雑誌やアンソロジーなどに掲載されていました。
『火星の戦士』
野獣の都/蜘蛛の王/鳥人の森
新新装版『永遠の戦士ケイン 野獣の都』
訳:矢野徹(早川書房)
初版:1972年 表紙/挿絵:松本零士/あすなひろし/石原春彦
新装版:1986年 表紙/挿絵:天野喜孝
新新装版:2008年 表紙:佐伯経多&新間大悟

ムアコックの単行本として最初にリリースされたシリーズ。永遠のチャンピオンの一人とされる主人公マイクル・ケインですが、作風はバロウズタイプの典型的なヒロイックファンタジーで、その他の鬱屈したムアコック流ヒロイックものとは一線を画し痛快なエンターテイメント作品。松本零士を始めとした異なる作家の表紙の初版から、80年代にコルム、エレコーゼ、エルリックが天野喜孝さん表紙で続々と発売され、その流れで3作の表紙や挿絵を天野さんで統一した新装版。左は2008年に3作まとめて1冊にした新新装版『永遠の戦士ケイン 野獣の都』。
『この人を見よ』
訳:峯岸久(早川書房)
初版(ポケット・ブック版):1974年
新装版:1981年 表紙:野中昇

キリストをテーマにした作品で主人公グロガウアーはのちに永遠のチャンピオンの一人として位置付けられます。中篇作品がネビュラ賞、この邦訳本はその長編版でヒューゴ賞受賞という名作。
『ルーンの杖秘録』
額の宝石之巻/赤い護符之巻/夜明けの剣之巻/杖の秘密之巻
訳:深町眞理子(東京創元社)
初版:1975〜80年 表紙/挿絵:高塚又三郎
新装版:80年代 表紙:天野喜孝
新新装版:2006〜7年 表紙:佐伯経多&新間大悟

1969年の作品なので、永遠のチャンピオンのコンセプトは表出していません。ここでは火星の戦士シリーズ同様のシンプルなヒロイックものとして楽しめる話となっています。主人公ホークムーンの話は次の『ブラス城年代記』でチャンピオンの流れをくんだ世界観に大変貌します。邦訳1巻は1975年、最終の4巻が1980年発刊という5年越しの刊行でした。
『紅衣の公子コルム』
剣の騎士/剣の女王/剣の王/雄牛と槍/雄羊と樫/雄馬と剣
新装版『永遠の戦士コルム』剣の騎士/雄牛と槍
訳:斎藤伯好(早川書房)
初版:1982〜84年 表紙/挿絵:天野喜孝
新装版:2007〜8年 表紙:佐伯経多&新間大悟

82年、コルムシリーズが刊行。いよいよ永遠のチャンピオンの各シリーズがコルムを皮切りとして発売されていきます。エルリックを代表としたムアコックの永遠のチャンピオンの壮大な世界観が描かれます。<法の神アーキン><混沌の神アリオッチ>が登場し、<法><混沌>の争いが明確化されます。エルリックとは異なりこの6巻できっちり完結します。2006年の新装版は前3作、後3作をそれぞれまとめて2巻としています。シリーズ6作中『剣の騎士』『剣の王』『雄馬と剣』の3作が英国幻想文学賞を受賞しています。
『エレコーゼ・サーガ』
永遠のチャンピオン/黒曜石のなかの不死鳥/剣のなかの竜
新装版『永遠の戦士エレコーゼ』黒曜石のなかの不死鳥/剣のなかの竜
訳:井辻朱美(早川書房)
初版:1983〜88年 表紙/挿絵:天野喜孝
新装版:2007年 表紙:佐伯経多&新間大悟

コルムシリーズが刊行されていく中、エレコーゼも翻訳。その後エルリックシリーズでも翻訳として活躍される井辻さんが担当。このシリーズによって永遠のチャンピオンの概念を明確化しました。
『エルリック・サーガ』
メルニボネの皇子/この世の彼方の海/白き狼の宿命/暁の女王マイシェラ/黒き剣の呪い/ストームブリンガー/真珠の砦/薔薇の復讐
訳:安田均(メルニボネの皇子のみ)、井辻朱美(早川書房)
初版:1984〜94年 表紙/挿絵:天野喜孝

本命と言えるエルリックシリーズが刊行、エレコーゼの「黒曜石のなかの不死鳥」の翻訳を終えた井辻さんが、2巻から翻訳を担当しました。ムアコックは必ずしも時系列に沿った順で執筆をしないので、76年に時系列順に並べたDAWブックスにならった順で刊行されてました。85年の「ストームブリンガー」で帯に記載あるようにシリーズ完結。その後新作「真珠の砦」が89年に本国で出版され翌90年に翻訳本が出版。91年の「薔薇の復讐」も94年に翻訳が出版されました。85年にホークスが『黒剣年代記』をリリースした時に、この国内でのムアコック本刊行ラッシュと重なって興奮したことを思い出します。日本では『ストームブリンガー』が出版された翌86年「星雲賞」海外長編部門を「エルリック・サーガ」として受賞します。なおこの頃イラストを担当していた天野喜孝さんは83〜86年にかけて「星雲賞」アート部門を連続受賞しています。
『ブラス城年代記』
ブラス伯爵/ギャラソームの戦士/タネローンを求めて
訳:井辻朱美(東京創元社)
初版:1988〜89年 表紙/挿絵:天野喜孝
新装版:2007年 表紙:佐伯経多&新間大悟

80年代のハヤカワ文庫でのムアコックの大量出版に合わせて、創元推理文庫でもホークムーンのその後、そして永遠のチャンピオンの重要な主役たちが一同に介するこの重要なシリーズを刊行。エルリック・サーガの翻訳をひと段落した井辻さんが担当。
『永遠の戦士エルリック』
メルニボネの皇子/この世の彼方の海/暁の女王マイシェラ/ストームブリンガー/夢盗人の娘/スクレイリングの樹/白き狼の息子
訳:井辻朱美
初版:2006〜07年 表紙:佐伯経多&新間大悟

ムアコックは2001年からエルリックシリーズの新たな出版を開始、2005年までに新3部作と言われる作品群が出版されました。英ゴランツ社が92年に時系列順を編纂したものに合わせて新3部作を組み込み、以前のエルリック・サーガを改編、文章を大幅に改訂して発売された新版。シリーズ1作目を井辻さんが新たに翻訳、新3部作を組み込んでいます。現時点では決定版。5〜7巻の新作3部作はムアコックの進化を感じる出来で、その世界はますます広がり、まだまだ物語は続くかもしれないです。
『永遠の戦士フォン・ベック』
堕ちた天使/軍犬と世界の痛み/秋の星々の都
訳:小尾芙佐
初版:1982年 表紙:ロウィーナ・モリル(集英社)
新装版:2007〜08年 表紙:佐伯経多&新間大悟(早川書房)

フォン・ベックの初巻「軍犬と世界の痛み」は81年に発表され非常に評判になった作品で、翌82年に集英社から「堕ちた天使」として単行本で出版されました。世界幻想文学大賞ノミネート。訳者あとがきで原題は「軍犬と世界の痛み」であること、続編として「秋の星々の都」が予定されていることも記載されています。そして2007年にタイトルを原題に戻し、ハヤカワ文庫から永遠の戦士フォン・ベックとしてシリーズ発売。翌年「秋の星々の都」(1986年)が2巻目として出版されました。さらに短編「フェリペ・サジタリウスの快楽の園」が追加されています。フォン・ベック・シリーズは同一主人公ではなく、フォン・ベック一族の時代の異なる人たちが主人公になるという形をとっています。人間の歴史に沿っての世界観であることが魅力の一つ。
その他 単発出版
『暗黒の廻廊』『白銀の聖域』『グローリアーナ』
「暗黒の廻廊」訳:安田均 表紙:鶴田一郎(1983年 早川書房)
「白銀の聖域」訳:中村融 表紙:山田章博(1996年 東京創元社)
「グローリアーナ」訳:大瀧啓裕 表紙:小林智美(2002年 東京創元社)

「暗黒の廻廊」は69年に書かれたニューウェーブの旗手らしい作品。ヒラリー・ベイリーとの共著。実験的な手法が特徴的。ロバート・カルバートがこの作品を気に入り、ホークウインドのステージでも朗読しました。「宇宙の祭典」(SPACE RITUAL)に収録されています。「白銀の聖域」は初期のバロウズ系の作品で、冒険活劇。世界幻想文学大賞、キャンベル記念賞を受賞した79年の「グローリアーナ」は壮大な宮廷絵巻とそこに繰り広げられる策略、陰謀を描いた傑作。
『エルリック・サーガ』
「ルビーの玉座/魔剣ストームブリンガー」
「白き狼/夢見る都」
脚色:ジュリアン・ブロンデル/ジャン・リュック・カノ 作画:ディディエ・ポリ/ロビン・レクト/ジャン・バスティッド
訳:井辻朱美(KADOKAWA)
初版:2020〜22年


エルリックのコミックの翻訳本。脚本はジュリアン・ブロンデルとジャン・リュック・カノ。コミックの作画はロビン・レクトとジュリアン・テロ。訳者は井辻さん!カット割や細部の書き込みなど、いかにもバンド・デシネ。原作の流れを汲みつコミック向けにアレンジしています。2巻でメルニボネがエルリックによって滅ぼされるところまで描かれています。壮麗な世界観が各コマの中であらゆるパースで表現されており、奥深いイメージを伝えています。価格は高いですが、その価値がある内容。1巻の刊行から2年後の2022年に第2巻が発売されました。気の長い刊行になりそうです。でも何かしらムアコックの作品が継続して日本で発売されるのは嬉しい。
マイケル・ムアコック・ディスコグラフィ
マイケル・ムアコック・インタビュー
マイケル・ムアコック・インタビュー2
ホークウインド「絶体絶命」
ホークウインド『黒剣年代記』
ホークウインド『ライヴ・クロニクルズ』
2023/01/11 update
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