ADRIAN WAGNER
DISTANCES BETWEEN US
ATLANTIC K 50082 (1974)
ホークス関連では、カルバートのソロ CAPTAIN LOCKHEED AND THE STARFIGHTERS にキーボード・プレイヤーとして参加していたエイドリアン・ワグナー。UK生まれの彼は、あのリヒヤルト・ワグナーの実孫にあたります。エイドリアンの父親も英国国籍なのですが、何故かというと一家は20世紀のはじめにUKに帰化したそうです。その父親も英国空軍の軍楽隊の指揮者。音楽一族に生まれたエイドリアンも王立音楽院に進学し作曲を学ぶかたわら、UKにおいてはいち早く MOOG、EMS のシンセサイザーに着目し、その普及、販売活動にも従事したそうです。特に EMS の初期販売に携わったため、当時 UK ではただ一人のシンセ・プレイヤーだったとのこと。そのため多くのミュージシャンから演奏依頼があり、そのあたりからカルバートとの交流があったそうです。TVや映画のサウンドトラックを始め、70年代にはロック・フィールドへの接近で UK のいくつかのバンドのレコーディングに協力します。その中でカルバート作品への参加、同時期にロック寄りのソロ・アルバムもリリースします。
CD化アルバム
SPECIAL EDITION/1ST ALBUM

THE MUSIC SUITE MS 112 (1990)
シングル・ジャケ。インナー無し。
この作品は1stアルバムで、同時期に THE ELECTRONIC LIGHT ORCHESTRA (バンド ELO とは違います) というシンセによる実験的な作品もリリースしていました。
ワグナーはモーグのモジュラー、アープ2600、EMS SYNTH-A
、オルガン、メロトロン、クラヴィネット、アコピという当時のプログレ正統派機材を使用。ボーカルも披露しています。参加ミュージシャンはカルバート、女性ボーカル、パーカッショニスト等です。
全体にアナログシンセ特有の厚い音色とメロトロンの乾いたコード進行が特徴的なスペース・ミュージック風。のちの作品に較べると、実験的な要素が多く現代音楽的な部分もあり、私は彼の作品中一番好きです。打楽器はほとんど使用していないので、リズミカルな曲調ではありませんが、時折現れるメロディアスなシンセ・ソロに泣きのメロトロンなどブリティッシュな匂いが一杯です。
THE ELECTRONIC LIGHT ORCHESTRA
KPM MUSIC RECORDED LIBRARY (1975) ジャケなしリリース。内容は同傾向で、やはりシンセとメロトロンの洪水。レア度満点なアルバム。
A面全体を費やすタイトル・ナンバーでは、中間部でカルバートお得意の朗読が聴けます。ボーカルの多重録音やテープエフェクトを駆使し、幻覚的効果もまずまず。
B面には、のちのホークス・ナンバーになる Steppenwolf が収録されています。作詞カルバート、作曲はワグナーというクレジットになっている通り、ワグナーが作った曲にカルバートが歌をかぶせたとのこと。ホークスのアルバムではカルバート&ブロック作曲となってしまっていますね。曲調はシンセベースのリフにカルバートのボーカルがのる淡々としたもので、ホークス版に較べると非常にシンプルな演奏です。
このアルバムは比較的レアで割と高めで取引されていたのですが、90年にワグナー自身の手により CD化され入手が容易になりました。ミックスが新たに施され、パーカッションの差換えなどの作業が行われています。
更に当時お蔵入りしていた曲が収録されました。この曲 Stranger In A Strange Land はシングルリリース用に制作されたのですが、結局リリースされませんでした。なんとカルバートのリード・ボーカルをフィーチャーしたもの!シンプルな Steppenwolf とは異なり、こちらはメロトロンを大幅に起用し曲調もカルバートらしいメロディアスな作品。ドラムがリズム・マシンなところがチープでいい感じ。こんな曲が録られていたとは、驚きでした。
またCDには、2nd アルバムに収録されていた Amazon Woman も収録されています。ワグナーの作品中最もロック色が強く意外にもファンキー・テイストで、メル・コリンズのサックスが大活躍しています。
今回彼の作品を紹介するにあたり、ご本人とのコンタクトが取れ取材を行うことができました。非常に親切で紳士な方でした。本文中にはインタビューで得られた話題や情報を反映させています。ちなみに当時の EMS SYNTH-A の価格は350ポンドくらいだったそうです。当時としては意外に高額だったことが判明。
左はCDジャケに書いて頂いたサイン。