ホークウィンド・デイズ・コラム
2024年5月9日
先日マーキーからポーランドのコラージュの『ムーンシャイン』が再発されました。最初のリリースが94年でしたので、もう30年も経ってしまいました。当時はポーランドというとSBBやニーメンくらいしか印象なかったのですが、『ムーンシャイン』が当時鳴り物入りで国内発売されたので試しに聴いたところ、愕然としました。メロディアスの極みというロマンティックかつ優美なサウンドとそれをバックアップする凄まじいシンセストリングスの音圧。卓越したメロディとアレンジに圧倒されポーランドロックの底力を感じたものです。おそらく当時あのアルバムを聴いたほとんどの方が同じような衝撃を受けたのではないかと思います。リーダーがドラマーというのも異色。でもドラムをあからさまに披露するのではなく、アンサンブルとしてのプログレ作品を丁寧に作り上げる姿勢が功奏しています。キャメルやスティーヴ・ハケットからの影響が大きいですが、場面場面での印象的な情景や息を呑むような美しさはこのバンドならではの個性を感じます。
次作の『セイフ』も素晴らしい作品で、オープニングから2曲目のメロディアスな美しさは特筆ものです。しかしその後バンドは解散、リーダーのヴォイテク・シャドコフスキーは自身のプロジェクトSATELLITEを始動、コラージュに同時代性を反映させたプログレ作を4枚残した後、その後音沙汰なくガッカリしていたのですが、実は2013年にコラージュを再編していて、2022年に待望の新作『オーヴァー・アンド・アウト』をリリース。発表時に紹介したかったのですが、今回の『ムーンシャイン』再発に伴ってようやく紹介しようと思いました。
94年のアルバム『ムーンシャイン』は前述したように壮大なシンフォプログレの名作ですが、ストリングス系のシンセの装飾華美なほどの分厚い音色が好みを分けるところではあります。全編を覆うセンチメンタルでロマンチックなメロディ、壮大なアレンジ。ハケットのギター音をさらに透き通るようにしたミレク・ギルの伸びやかなギター、手の込んだ楽曲構成やセンスはずば抜けていると思います。このアルバムの制作前93年にコラージュは同じメンバーでジョン・レノンの楽曲カバーのアルバムを習作的に作成していますが、その成果がこの『ムーンシャイン』に結び付いたとも思えます。楽曲的には直接的な影響は薄いですが、奥の深さや音楽の本質に多々影響を感じます。
またこの『ムーンシャイン』の全曲含めた96年のライブをDVDで2004年にリリースしています。この複雑な楽曲をライブで再現できるのか?と興味津々で観ましたが、再現していました。分厚いシンセのアレンジは流石に一部バックトラックを使っていますが、鍵盤のクシシュトフ・パルチェフスキーがほぼ手弾きしています。ただライブ演奏自体は完璧というものではなく結構荒削りな印象でした。その点でスタジオ作はかなり作り込んだものなんだと思いました。
ちなみに今回のリマスターですが、初期のマスタリングに比べて繊細な印象で、特に低音が抑えられています。個人的にはコッテリ感いっぱいの初期マスタリングの方が曲調に合ってるように思います。
リーダーのシャドコフスキーはポーランドの名グループQUIDAMのデビューアルバムを共同プロデュースしたり、オルタナ系のバンドSTRAWBERRY FIELDS、TRAVELLERSを組織する傍ら、自身のプロジェクト「サテライト」としてアルバムを4作リリースしました。1stアルバムはコラージュのメンバーやクィダムのメンバーが参加、その後はある程度固まったメンバーでコラージュそのままのテイストの高作品郡を発表していきます。1stアルバムにはギターのミレク・ギルが参加したもののその後脱退し彼はソロプロジェクトを展開します。サテライトの作品は当時ディスク・ユニオンのアルカンジェロから全作発売されました。また2ndアルバムリリース後にはライブDVDもリリースしました。
そして復活したコラージュの最新作『オーヴァー・アンド・アウト』。メンバーは『ムーンシャイン』に参加していたキーボードのパルチェフスキー、ベースのピョートル・ミンタイ・ウィトコウスキーが復帰。ボーカリストはクィダムの2代目ボーカル、バルトシュ・コソヴィッチ。クィダムで味のあるボーカルを披露してましたが、クィダムが解散状態ということもありコラージュに招いたと思われます。歌唱力は十分でコラージュにフィット。シャドコフスキーのソロプロジェクトであるサテライトとは異なり、バンドとして各メンバーの個性を活用した姿勢となっています。実に27年ぶりの作品となり、まさに復活にふさわしい内容です。プロデュースは鍵盤のパルチェフスキー。22分に渡る1曲目からコラージュのシンフォロックが堪能できます。『ムーンシャイン』の頃よりは全体にソリッドで硬めの印象。
ポーランドのシンフォニックロックのもう一つの傑作と言えばクィダムの1stアルバム。前述したように共同プロデュースにコラージュのシャドコフスキーが参加し、一部の作詞も担当。同じくコラージュの当時のギタリスト、ミレク・ギルもゲスト参加するなどコラージュの全面的バックアップもあり、同系統ながらボーカルのエミーラ・ダーコウスカのソプラノ美声を生かし、専任のフルート奏者が在籍しアコースティックなアレンジも加味されたもので、これも当時大変話題になりました。名作であるデビューアルバムは何度か再発されていますが、2022年の再発盤ではオープニングナンバーを2021年にセルフカバーしたトラックが収録!ベーシストを除く当時のメンバーが集結しており、再編か!と期待しましたが、どうもそのような情報は今のところありません。なお2ndアルバムやエミラ在籍時の最終作POD NIEBEM CZAS(これも名作)までリマスター発売されました。機会があればQUIDAMも紹介します。
2024/5/9 update