その後のワグナーですが、フィルム等のサントラをはじめとして、地道に活動を続けていたようです。活動拠点はウエールズに移し、レーベル THE MUSIC SUITE より作品リリースを開始。この頃から機材はシンセ中心になり、シンセ・オーケストレーションによるシンフォニカルな作風になっています。かつてのロック寄りの音から純然たるシンセ・ミュージックへと変化、その方向性は現在も継続しています。TV番組やミュージカルのサントラを手掛ける傍ら、瞑想音楽やリラクゼーション音楽なども精力的に発表。ここに紹介している以外にも多数アルバムをリリースしています。
90年代後半に入ってからは、作家ローレンス・ガードナーとタイアップ、インタラクティブな音楽活動を始めます。ガードナーは歴史研究家であり、宗教を始めとした文化人類学に基づき隠れた人類史を解き明かす手法を取っています。著作は多く、英米では結構有名な作家のようです。
従来ワグナーは、その作品造りにおいて常にコンセプチュアル志向でしたので、ガードナーの著作をコンセプト源に選ぶことで、更なる創作意欲をかき立てられたようです。
最新作はガードナーとのタイアップ第3弾になる REALM OF THE RING LORDS。ガードナー REALM OF THE HOLY GRAIL というシリーズの3作目。聖杯をテーマに扱っているので、西洋文化圏外の私達には理解しにくいコンセプトですが、久々にホークス絡みのトラックが収録されています。
音楽的には近作同様、アコースティック楽器のサンプリング音をメインとしたバーチャルなオケサウンド。このアルバムにはカルバートがなんと61年に書いた詩 Merlinが取り上げられており、ガードナーが朗読しています。曲のタイトルは Excalibur ということで、アーサー王伝説を題材にしています(Merlin は同伝説に登場する魔術師の名前)。
また Princes Of Darkness という曲では、再び Steppenwolf のフレーズが取り上げられています。このアルバムでは「指輪物語」もテーマになっており、作者のトールキン本人が自作の文章を朗読しているシーンも収録されています。すでに故人ですので、昔録音された音源を使用したようです。

その他インタビューで得られた情報を紹介します。
好きな作曲家はメシアン、シベリウス、マーラー、バッハ、ベートヴェン、ロックではピンク・フロイドなど。
最近の制作方法はマックによるDTMによって行っているとのことです。従って機材は極めてコンパクトとのこと。以前使用していたアナログ機器は、もう所有もしていないそうです。
現在はガードナーとの共同コンセプトでオラトリオ交響曲 REALM OF THE HOLY GRAIL 実演の準備をしているそうです。プレイヤーはフルオケ、パーカッション・セクション、2つの合唱団、弦楽トリオ、4人のソロ・ボーカリストなどを含む大規模なもので、アルバム・リリースも予定しているそうです。

KARMING THE ELEMENTS
THE MUSIC SUITE MS 106 (1989)

HOLY THE SPIRIT AND THE HOLY GRAIL
MEDIA QUEST AW 005 (1999)

GENESIS OF THE GRAIL KINGS
MEDIA QUEST AW 006 (1999)

REALM OF THE RING LORDS
MEDIA QUEST AW 008 (2001)
彼の情報については MEDIA QUEST というサイトで作品の紹介、販売も行っていましたが没後閉鎖されました。