Analog Disc
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CHARISMA CDS 4004 (1976)
デザイナーはバーニー・バブルス。1930年代からアメリカで発行されているSFパルプ雑誌のASTOUNDING STORIESの初期表紙のデザインを模したもの。
表と裏を逆にミスプリントした初期盤は表ジャケの下にMarketed by Charisma Records Ltd.のクレジット記載があり、レコード入れる口が向かって左になっています。
正しいジャケは裏ジャケにMarketed byの記載があります。
裏側はホークスのシンボルマークを20世紀FOX映画のオープニングロゴに模したもので、ジャケットデザイン全体が雑誌、映画のパロディ&オマージュとして作られています。
インナースリーブは広告風デザイン、メンバーの名前ごとに怪しげな広告が掲載されています。
レーベルはスモールマッドハッターでマトリクスはA//1U、B//1Uから。ミスプリントジャケも正しいジャケもこのマトリクスのものがあります。
Side 1
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Side 2
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76年はバンド開始時からの怒涛のロードは休止、アルバム発表の8月まで、僅かなギグしか行いませんでした。このアルバム制作にかなり時間を割いたものと思われます。
先行発売されたシングルKerb Crawlerでは、カルバートをメイン・ボーカルとした新しい布陣をアピール。しかしシングルとはいえ、あまりにイメージの違うファンキーな曲調でバンドに大きな変化が起きていることが明らかになります。
続いて発売されたこのアルバムでもカルバートをリードボーカリストとして前面に起用。72年のSPACE RITUALステージでは朗読中心だったカルバートが、翌73年のステージからメイン・ボーカルに昇格したものの、ソロ活動に専念するためにホークスを抜け2枚のソロアルバムを制作後戻ってきたので、流れからすると彼がフロントマンになったのも当然と言えます。ソロアルバム制作の経験でしょうか、以前より歌唱力が上っています。レミーに差し替えしなければならなかったヨレヨレのシルバー・マシーンの印象が強いですが、ソロ作を聴くとそうでもないので、もともと歌唱力はあったのかも。
バーニー・バブルス制作のジャケに反映されているように、ブロックやカルバートのSF&ファンタジー小説趣味を反映、カルバートが朗読を発展させシアトリカルな歌い手となっている曲や演奏主体のインストが多めに収録されています。
オープニングは機関車のSEからスタート。軽快なブロックのストロークに続いて、アップテンポなリズムとカルバートのボーカル。ファルセットと通常域の歌声を重ねています。パウエルのテクニカルなドラムプレイが際立ち、サウンドはデッドな印象で従来のスペーシーな印象が薄れています。
このオープニングの印象がアルバム全体の印象となります。キレのいいリズムにかぶってくるのは電子音ではなくハウスのアコピ。パブロックのようなサウンド。コーラスに続いてハウスのシンセソロが登場し、ようやくホークスらしくなり、そこにニックのサックスも絡みます。
1930年代にアメリカでマリファナの怖さを啓蒙するために作られた映画をコンセプトとしており、歌詞はマリファナ中毒とその幻覚症状を歌っています。インストパートではカルバートが幻覚症状をシアトリカルに呟いたりと同じカリズマのジェネシス風のムード。コーラスが戻って終了。中間部で演奏にホワイトノイズがかぶさり演奏がフェードアウト、フェードインします。このカットされた中間のインストパートはシングルKerb CrawlerのB面Honky Dorkyで一部を聴くことができます。さらに後年のATOMHENGEのコンピレーション盤SPIRIT OF THE AGE AN ANTHOLOGY 1976-1984(2008)では、この中間部が途切れずにつながった完全版が収録されました。完全版はこの3枚組コンピのみの収録です。
続くSteppenwolf はスローテンポなブロックのコードストロークとハウスのオルガンのイントロ、ますます普通のバンド。コンセプトはヘルマン・ヘッセの同題小説「荒野の狼」からインスパイアされつつ、狼男を演じるカルバートが印象的。レスリー通したオルガンのソフトな音色、流暢なバイオリン、歪みすぎないギターとサウンドの大変化を感じます。
なおこの曲はカルバートが参加したエイドリアン・ワグナーのソロアルバムDISTANCES BETWEEN US(1974)に収録されていた曲を、今回ホークスがカバーした形。元は地味な印象の曲でしたが、ホークスによってスケールアップ。
3曲目はインスト、リラックしたムードのクロスオーバー風。イントロのギターはルドルフかも。フェイズのかかったストリングス、ハウスのシンセアドリブが1曲目同様目立ちます。しかしそれでもスペイシーさは皆無。
アルバムB面に移っても印象は変わらず、やっぱりファンキーなインストThe Aubergine That Ate Rangoon、続いて先行シングルのKerb Crawler。風の音から始まるKadu Fiyerはニックがリードボーカル。ここでもハウスのピアノやシンセワークが活躍、後半シタールやアラビア音階でエキゾチックに変化。
終曲も流れるようなフェイズストリングスにサックス、エレキのアドリブがプレイされ、美しい風景、穏やかなフェードアウト。
楽曲は従来に較べて一般的な作曲法になっています。普通のバンドみたいです、というか普通もできるということを証明したかのような作品。
ツインであることを強調するよりもパーカッション類を多彩にしたドラムチームとルドルフの安定感あるベースにより堅実なリズム隊。曲作りにおけるハウスの参加率が上がり、各曲調に合わせたキーボード・センスも良く、全体的にテクニカル。
従来のホークスから大きく印象が変わったので、賛否両論分かれる作品だと思いますが、カルバートの作ったコンセプトを丁寧にアレンジして完成させた曲を中心にルドルフ、パウエルの持ち込んだ従来にないムードとハウスのキーボードワークが独自の世界を作っています。スペイシーさは薄らぎホークスらしくないとはいえ、ブリティッシュ・ロックの1作品として見れば良作だと思います。
過去のアルバムと趣を異にしていますが、全英33位とまずますの反応。ただしニックがやや浮き気味で、独自のフリーキーなソロも押さえられています。脱退後の活動を見るまでもなく、このようなバンドには嫌気がさしたかのような脱退を招きます。
【HAWKWIND 1976】L to R:Nik Turner - Simon King - Bob Calvert - Alan Powel - Dave Brock - Simon House - Paul Rudolf
このメンバーでのツアーはステージセットを ATOMHENGE と称し大掛かりなものでした。同年9〜10月に行われ、そのときの模様は 2000年に発売された THRILLING HAWKWIND ADVENTURES (GRIFFIN)及び ATOMHENGE 76 (VOICEPRINT)で聴くことができます。
このアルバムからの曲に加えて、次作に収録されるハシシやアンクルサムズなどもツインドラムスでプレイしており、なかなか楽しめます。
このツアーのプログラムはこちら。そして、10月のツアー終了後、メンバー間のゴタゴタがあり、ターナーとパウエルが脱退し、12月に追加で行われたツアーでは5人編成となっていました。
<リイシュー情報>
その後このアルバムはVIRGINで初CD化され、2009年にはATOMHENGEレーベルより、オリジナルマスターテープからのマスタリング&ボートラ入りの決定版がリリースされました。このアナログ盤収録曲に加えて、シングルKerb Crawler及びB面のHonky Dorky、翌年リリースされたシングルBack On The Streets及びそのB面The Dream Of Isisが追加収録。
Kerb Crawlerはアルバム収録テイクとほとんど同じ、というか違いが分からないです。Back On The Streets / The Dream Of Isisは、シングルとは別ミックスで、初出になります。こちらはオリジナルとは違いが分かります。Back Onはシングル版の中央に寄せた塊感に対してステレオの広がりを感じさせるミックスになっています。
なお本文に記載しましたようにオープニングの
Reefer Madnessの完全版はATOMHENGEのコンピSPIRIT OF THE AGE AN ANTHOLOGY 1976-1984に収録されています。
・このアルバムの国内盤LP「アストウンディング・サウンズ,アメイジング・ミュージック」(1976)のレビュー
・このアルバムのATOMHENGEリマスターCD ASTOUNDING SOUNDS, AMAZING MUSIC(2009)のレビュー
・このアルバムのATOMHENGEリマスターCDの日本盤「アストウンディング・サウンズ, アメイジング・ミュージック」(2009)のレビュー
・このアルバムのCD盤 EXILESさんのレビュー
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2017/11/24 update